第一章 台風と鋼管支柱
数年に一度の巨大台風だと、おやっさんが言っていた。
もちろん、台風対策はすでに済んでいた。
鋼管のアニキはあらかじめ立てられ、主枝はしっかり固定されていた。
だが、どれだけ備えても、台風は容赦しない。
風が強まり始めた瞬間、畑の空気がピリッと変わった。
そして暴風雨が襲ってきた。
雲が一方方向にものすごい速さで流れていく。
その方向に僕の枝葉も容赦なく曲げられていく。
耐えられない枝葉は根本から折れ、瞬時に彼方に飛んでいく。
せっかく伸びた新梢も、有無を言わさず引きちぎられ、空に消えていった。
バサバサバサバサバサッ
枝葉が悲鳴を上げるたび、僕の身体は軽くなる。
それとは逆に心は重く沈んだ。
でも、主枝は鋼管のアニキが守ってくれていた。
細い枝葉も守って、とは言えなかった。それが台風というやつだ。
どんなに激しい暴風雨が襲ってきても、鋼管のアニキは揺れなかった。
僕がどれだけ揺れても、アニキは全く揺れなかった。
アニキには言葉は通じない。
でも、アニキの沈黙は確かにこう言っているようだった。
「大丈夫だ、心配すんな」
台風が去ったあと、僕は心身ボロボロだった。
それでも何とか立っていた。
アニキがそこにいたからだ。
第二章 若木を支える竹支柱
僕がまだとても小さかった頃の話だ。
幹は細く、風が吹くたびにフラフラ揺れていた。
影にすら負けそうな弱い時期だった。
そんな僕の横に、おやっさんは一本の竹支柱をスッと差し込んだ。
それが最初のアニキだった。
竹のアニキは細くて軽い。
でも、風が吹いたとき、僕を「優しく、無理なく」支えてくれた。
強く縛らない。
無理に固定しない。
でも、倒れないように確実に支える。
若木の支柱は、寄り添うだけじゃない。
ちゃんと“支える”ためにある。
竹のアニキは、僕の最初の支えだった。
第三章 予測不能の大雪と三本支柱(合掌式)
晩秋のある日、天気予報では雪マークは一つもなかったらしい。
畑の空気も穏やかで、僕もいつも通り静かな晩秋を過ごすつもりだった。
ところが――
周りの山々に白いモヤがかかりはじめた。
お昼過ぎ、突然信じられないほどの大雪がモサモサと降り始めた。
みるみるうちに積もる雪。
重い…。水分がたっぷり含まれていた。
枝が、ゆっくり、ゆっくり下へ沈んでいく。
そのとき、手に何かを持ったおやっさんがこちらに走ってきた。
息を切らしながら、僕の枝をぐるりと見渡し、
どこが危ないかを瞬時に読み取る。
そして三本の支柱を次々と立てていった。
一本、また一本、そして最後の一本。
三本の支柱は、僕の頭上で“合掌”するように結ばれた。
おやっさんは最後に深く一息をついた。
口もとにはご飯粒が付き、頭や肩には雪が積もっていた。
雪は降り続けた。枝は沈んだ。
でも、アニキたちのお陰で僕は折れなかった。
自然は時々、予測不能な試練をぶつけてくる。
だからこそ、支柱がいる。
第四章 実の重みに耐える枝受け支柱
夏の光が強くなり、僕の枝にはたくさんの実がつき始めた。
今年は特に調子が良かった。
その結果、僕の枝は自分の実の重さに耐えられなくなっていた。
ゆっくり、ゆっくり、枝が下へ沈んでいく。
おやっさんが畑に来て、僕の枝をぐるりと見渡した。
枝の角度、実のつき方、しなり具合、折れそうな場所。
それらを静かに読み取ると、枝受け支柱を抱えて戻ってきた。
一本、また一本と丁寧に差し込んでいく。
無理に持ち上げない。
でも、折れないように確実に支える。
実りの影には、必ず支えがある。
僕はそのことを、この夏に深く知った。
第五章 折れたイボ竹支柱
ある朝、僕のわきに一本のアニキが倒れていた。
若い頃に寄り添ってくれた、イボ竹のアニキだ。
最近では僕の支枝を支えてくれていたのがこのアニキ。
まわりの皮はボロボロにめくれ、
芯の金属は錆び、スカスカになり折れていた。
長い年月の雨と風に削られ、
静かに役目を終えた姿だった。
僕は立派だなと思った。
おやっさんはアニキを見つけると拾い上げ、手拭いでついた土をきれいに拭い落とした。
腰のはけごから布テープを取り出した。
そして折れて2本になったアニキをまとめ、そっと巻き付けた。
まるで長く働いた仲間をねぎらうように。
そのあと、おやっさんはアニキを手に持ち静かに歩き去った。
それは“処分”ではなく、
役目を終えたアニキを送り出す儀式のように僕には見えた。
第六章 役目を終えた鋼管支柱の撤去
春の光が畑を温め始めた頃、
僕の幹はもう太く、風にも雪にも負けなくなっていた。
おやっさんは鋼管のアニキを抜いていった。
土が少し鳴き、アニキの身体がゆっくり地面から離れる。
アニキは何も言わない。
でも、確かにこう伝わってきた。
「お前はもう大丈夫だ。立派になったな」
風が吹いた。
僕は少し揺れた。
でも、倒れなかった。
畑は少し広く見えた。
それは寂しさではなく、これから伸びていくための余白だった。
終章 僕が支柱になる日(ブルーベリー自身が“支え”になる)
春の風が畑を渡る。
若い頃は怖かった風が、今ではただ心地よく枝を揺らすだけになった。
そんなある日、畑の端に小さな苗が植えられた。
細くて、頼りなく揺れて、昔の僕そっくりだった。
おやっさんは苗の横に竹支柱を立てた。
風が吹いたとき、僕は気づいた。
僕の巨体が、苗を守っていた。
枝で風を和らげ、
根で土を守り、
影で苗を包む。
支えるとは、代わりに立つことじゃない。
押さえつけることでもない。
そばにいて、倒れない時間を渡すこと。
それを教えてくれたのは、
これまで出会ったすべてのアニキたちだった。
そして今日、僕は静かに思う。
「ありがとう、アニキたち。
今度は僕が、誰かを支える。」
支柱はただ支える存在だけど、
これがなければブルーベリー栽培は成り立たない。
支柱は、縁の下の力持ちだ。
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