そのお客様は、当ナーセリー第一回園地開放・苗木直売会に真っ先にご応募くださった方でした。
しかも、園地開放を開催しますと告知してから、わずか数時間後のご予約です。この時の当サイトの浸透性から考えると圧倒的な高速予約でした。
メールのやり取りをしている段階から、私は「この方の栽培意欲はものすごいな」と感じていました。まだお会いする前にもかかわらず、その熱量が文章から伝わってきたのです。
県外からのご来園と壮大な計画
当日、お客様は奥様とお二人で、わざわざ県外からご来園くださいました。
本当にありがたいことです。
園地をご案内する前、お客様は現在の栽培状況や将来の目標についてお話してくださいました。
その内容は驚くべきものでした。
ある品種を中心としたブルーベリー園を作り、その品種の意外性や魅力を発信したい。
そして、自分の地域から少しずつ活気が失われつつあるため、ブルーベリーを活用して地域活性につなげたい。
そんな壮大な計画を語ってくださったのです。
私は純粋に「計画がとてもすごい」と思いました。
同時に、「ものすごいエネルギーを持った人だな」と率直に感じました。
失敗談の数だけ挑戦がある
お客様は栽培に関するさまざまなお話を聞かせてくださいました。
- ブルーベリーを栽培し始めて近所へ実を配るようになった結果、周囲の方が自分を気にかけ、散布する除草剤が明らかに減ったというお話
- 独特の栽培方法に挑戦した結果、何本も枯れてしまい、まるで苗木の耐性選別のようになってしまったというお話
- 開花期にミツバチが少なすぎるため、人工授粉にも取り組んでいるというお話
どのお話も、失敗を恐れず挑戦を繰り返してきた方ならではの内容でした。
むしろ失敗談のほうが多いのではないかと思うほどでしたが、その表情は終始楽しそうでした。
奥様もまたブルーベリーに魅せられた一人?
そんなご主人のお話を隣で聞いていた奥様も、とても印象的でした。
ご主人が熱心にブルーベリー談義を繰り広げる一方で、奥様は私が育てた苗木をじっくり観察しながら写真に収めておられました。
そして、ご主人の話を聞きながら時折見せる表情は、失礼ながら「はいはい、また始まった」「また言ってるよ」というような、どこか慣れた苦笑いにも見えました。
しかし、その様子を見ていると、奥様もなんだかんだでブルーベリーに取り憑かれたお一人なのではないかと思えてきます。
ご主人が熱中している横で苗木を観察し、写真を撮る姿は、十分にブルーベリー好きそのものでした。
受粉樹候補を一緒に探す
今回ご来園いただいた大きな目的の一つが、ある品種に適した受粉樹候補を探したいというものでした。
お話を伺うと、現在栽培している受粉樹は開花期が数日ずれているうえ、栽培適応範囲としても少し厳しい系統のようでした。
そこで私は、その品種と相性が良さそうな品種をいくつかピックアップし、それぞれの特徴や開花時期について説明しました。
お客様は真剣な眼差しで話を聞いておられました。
そして最終的に、その品種たちに加え、私がおすすめした品種もいくつかお買い上げくださいました。
ご購入のたびに奥様へ確認を取っていた姿も微笑ましかったです。
すると奥様は笑いながら、
「はいはい、次いつ来られるか分からないんだからどうぞ。」
と背中を押しておられました。
栽培ノートから伝わる本気度
お客様は途中、自前の栽培ノートを取り出してくださいました。
そこにはこれまで試してきたことや結果、課題などが細かく記録されていました。
お客様はそのノートを見ながら、一つひとつ説明してくださいます。
その姿からは、「なんとなく趣味で育てている」という雰囲気は全く感じられませんでした。
栽培と真剣に向き合い、失敗を記録し、次へ生かそうとしていることが伝わってきました。
苗木販売という考え方に共感
お客様はこんなお話もしてくださいました。
「ブルーベリーの実だけで生計を立てるのは、私にはどう考えても厳しい。」
だから、一年を通して苗木も販売していく仕組みが必要だと考えたそうです。
その考え方には、私自身のナーセリー運営とも通じるものがありました。
さらに、そのとある品種と受粉樹の組み合わせを地域へ広め、ブルーベリーを町の特産品にしたいという構想も聞かせていただきました。
地域活性へ向けた壮大な計画の一端を垣間見た気がしました。
質問攻めで私の方が根負け
その後もお客様からの質問は続きます。
挿し木の方法、鉢増しのタイミング、大きく育てるコツ、苗木生産についてなど、とにかく質問の勢いが止まりません。
私はできる限りお答えしましたが、途中からは私の方が根負けしそうになるほどでした。
それだけ真剣に取り組まれている証拠だったのでしょう。
来年はイベント出店のお誘いまで
さらに帰り際には、ありがたいお言葉までいただきました。
「来年、うちのイベントに出店しに来ませんか?」
地域活性へ向けて取り組んでいるお客様からのお誘いです。
私は即答しました。
「休みを取り喜んで伺います。苗木で車を満載にして向かいます。」
実現したら、とても面白い一日になりそうです。
時間がいくらあっても足りない
帰る直前、お客様はにっこり笑いながらこう言いました。
「だめだ、時間いくらあっても足りない。」
「いつまででもいてしまう。」
そして自らを戒めるように園地を後にされました。
その車には苗木や用土がぎっしり積み込まれていました。
その姿は、これから新しい挑戦へ向かう冒険者のようにも見えました。
あとがき
失敗。
失敗。
また失敗。
お客様ご自身も、これまでたくさんの失敗を経験してきたと笑って話してくださいました。
しかし、その失敗の数と同じだけ挑戦がありました。
そしてその挑戦は、ご自身の楽しみだけではなく、地域を元気にしたいという想いへつながっています。
その姿勢から、私自身もたくさんの刺激と元気をいただきました。
来年、どのような景色になっているのか。
Sさん!またお会いして、お話を聞ける日を楽しみにしています!イベント時には駆けつけます!

