お客様との出会い
先日の苗木直売会で、とても印象的なお客様と出会いました。県内からお越しくださったその方は、もうすぐ80歳になるのだと話してくださいました。しかし私が最初に感じたのは年齢ではありませんでした。驚いたのは、その方の目の輝きです。ブルーベリーの話が始まると、その方の言葉は次から次へとあふれ出し、その熱量に私は引き込まれていきました。
栽培歴わずか1年とは思えない観察眼
話を聞いてさらに驚いたのは、その方のブルーベリー栽培歴がまだ丸1年だったことです。現在育てている品種は15種類とのこと。しかもその方は、私の園地の苗木を見ながら、ノーザンハイブッシュとラビットアイの違いを自然に見分けていました。その様子を見て、私はすでに初心者の域ではないと確信しました。
そこで私は、「どうして見分けられるんですか?初心者でこの見分けがつくのはすごいことだと思いますよ」と尋ねました。するとその方は、少しも特別なことではないという表情で、にっこり笑いながらこう答えました。
「毎日観察してますから」
その一言に、この方の一年間が凝縮されているように感じました。毎日樹を見て、葉を見て、芽を見て、小さな変化を見逃さない。だからこそ知識が身につき、だからこそ樹の違いが見えるようになるのです。栽培年数ではなく、どれだけ樹と向き合ったか。その大切さを改めて教えられた気がしました。
YouTubeもインターネットもAIも駆使して自ら学ぶ貪欲さ
その方の話は本当に尽きませんでした。ブルーベリーのクロロシスが発生した際には、その原因を徹底的に調べたそうです。インターネットで情報を集め、AIも活用しながら仮説を立て、自分なりに考察を重ねた末に栄養剤を試したところ、樹は見事に回復したといいます。その経緯を語る姿はとても生き生きとしていて、「こういう理由だと思うんですよ」「試してみたら改善したんです」と楽しそうに話してくださいました。
また、当ナーセリーでお伝えしているブッシュ状の樹形づくりや、苗木を大きく育てるための独自の考え方についても、大きくうなずきながら耳を傾けてくださいました。新しい知識に触れることが楽しくて仕方がない。その気持ちがこちらにも伝わってきました。
奥様との微笑ましいやり取り
そんな熱心な栽培者である一方、その方は何度も奥様の話をされました。
「苗木を増やしたいんですけどねぇ、妻に年を考えろって言われるんですよ」
「自分がいくつだと思ってるんだって止められるんです」
そう言いながらも、その表情はどこか楽しそうでした。もちろんご家族の心配もよく分かります。年齢を重ねれば体力面の不安もありますし、植木鉢がどんどん増えていけば気になるのも当然でしょう。
そこで私は半分冗談、半分本気でこうお伝えしました。
「それなら奥さんに、とりたての完熟果を一粒食べてもらったらどうですか」
ブルーベリーの魅力というのは、案外説明では伝わりません。しかし自分で育てた完熟果を一粒食べれば、多くの人はその価値を理解してくれます。なぜそこまで夢中になるのか。なぜ毎日樹を見てしまうのか。その答えが、たった一粒の実に詰まっていることがあるのです。
「あと5年しか面倒を見られないとしても育てたい」
話の中で、その方はふとこうおっしゃいました。
「私には時間がないんですよ。あと5年くらいしかブルーベリーの面倒見られないだろうから、その間は頑張って育てたいんですよ」
けれど私は、その言葉から諦めを感じませんでした。むしろ逆でした。もっと育てたい。もっと知りたい。もっと上手くなりたい。その方の中には、未来への期待があふれていたのです。
そこで私は自然にこうお伝えしました。
「もし、万が一育てられなくなったら、お客様のブルーベリーはすべて当ナーセリーで引き取ります。親木として大切に育てますから」
すると、その方は安心したように微笑み、「ありがとう」と静かに言いました。
おそらく安心したのは、鉢の引き取り先が見つかったからではないのでしょう。長い時間をかけて育ててきたブルーベリーたちが、自分の手を離れた後も生き続けることが分かったからだと思うのです。
「いつブルーベリー農園を始めるんですか?」
そして帰り際、その方は私に一つの質問をしてくださいました。
「いつブルーベリー農園を始めるんですか?」
私は正直に答えました。
「あと20年後ですかねぇ。中学生から0歳の赤ん坊まで3人育てていますから。自分の欲望は二の次ですよ。まだまだ家族最優先です」
その方は大きくうなずいていました。
私は今年42歳になります。一方、その方は80歳を目前にしています。年齢だけを見れば大先輩です。しかし、私の頭の中に浮かんでいたのは、年齢の差ではありませんでした。
どうか私がブルーベリー農園を開く日まで元気でいてほしい。
またクロロシスの話、新しい品種の話、また奥様に怒られながら苗木を増やした話を聞かせてほしい。
そしてまた園地の片隅で、もう一度ブルーベリー談義に花を咲かせたい。
人の心は年齢で老いるのではなく、好奇心を失った時に老いるのかもしれない
なぜだろうと考えること。もっと知りたいと思うこと。もっと良く育てたいと願うこと。それらを持ち続けている限り、人は何歳になっても前を向いて歩いていけるのではないでしょうか。
先日の直売会で出会った80歳のブルーベリー栽培者の目は、本当に誰よりも輝いていました。
私はこの日、ブルーベリーの育て方をお伝えしたつもりでいました。
けれど本当は違ったのかもしれません。
人生の楽しみ方を教わったのは、私の方だったのです。私も、この方のように80になってもブルーベリーを育てていたいと思いました。
Мさん、またお待ちしていますよ!次はぜひ、奥さんとともにお越しください!

