圃場に並んだ、似ていない兄弟たち
育種圃場に、同じ両親を用いた人工交配から生まれた実生が並んでいた。
種子をまいた時期は同じだった。母親となった木も、花粉を採った木も同じだった。
しかし、数年をかけて成長した木々は、兄弟とは思えないほど異なる姿を見せた。
空へ向かって勢いよく枝を伸ばす木がある。地面に近い位置で横へ広がる木もある。
春早く花芽を動かす木の隣で、暖かな日が続いても眠りを守る木がある。
果実の大きさも、色も、成熟する時期もそろわない。花粉を豊かに出す木がある一方で、花は咲いても、次の交配に使える花粉をほとんど作らない木もあった。
異なる系統や野生種を利用した育種圃場では、こうした不ぞろいな実生が育てられていた。
育種家が求めていたのは、二つの親が持つ性質を、新しい組み合わせで備えたブルーベリーだった。
だが、交配によって生まれた木々は、両親の特徴を半分ずつ整然と分け合ってはいなかった。
樹姿は片方の親に似ながら、開花期は両親の中間に収まる。寒さには耐えても、果実が小さい。大きな果実を付けても、次の世代を作る力が弱い。
一株の中に現れる性質の組み合わせは、それぞれ違っていた。
ハイブリッドの遺伝的特徴は、初めから教科書の中に整理されていたわけではない。
圃場へ現れた、似ていない兄弟たちを育種家が見つめ続けるところから、その理解は始まったのである。
この時代に何が起きていたのか
ブルーベリーの種間交雑が進められた当初、育種家は遺伝子そのものを見ることができなかった。
現在のように、一株ずつDNAを調べ、どの祖先からどの遺伝的領域を受け継いだのかを確認する技術は存在しなかった。
育種家が頼りにしたのは、目の前に立つ木の姿だった。
枝の伸び方、葉の形、花芽が動く時期、果実が熟すまでの日数、冬を越した後の花芽の状態。
果実を収穫すれば、大きさ、色、硬さ、風味、果皮、種子、果梗痕を確かめた。
一本の木を一度見ただけでは判断できない。
暖冬の年には早く目覚めても、厳しい冬には花芽を失う木がある。若木の頃には旺盛でも、結実が始まると樹勢を落とす木もある。
育種家は、同じ実生を何年も観察しなければならなかった。
交配の狙いが耐寒性であったとしても、寒さに耐えただけでは品種にならない。果実品質、収量性、樹姿、成熟期、稔性まで含め、栽培に必要な性質が一株の中へそろう必要があった。
異系統間交雑は、完成された品種を直接生み出す魔法ではなかった。
従来の育種集団には存在しなかった遺伝子の組み合わせを圃場へ呼び込み、その中から利用できる一株を探し始めるための仕事だったのである。
育種家は、木の姿から見えない遺伝を読んだ
第一世代の雑種には、葉や花、樹姿などの一部が、両親の中間に見える個体が現れることがあった。
しかし、第一世代の時点から、すべての性質が同じ割合で中間になるわけではなかった。
樹高は中間でも、果実の色は一方の親に近い。開花時期は遅くなっても、目的としていた耐寒性は十分に現れない。旺盛な生育を示しながら、果実品質は野生親に近いままという個体も生じた。
育種家は、祖先構成の割合と、実際の性質が単純には一致しないことを、圃場の経験から知っていった。
ある野生種が系譜上四分の一含まれていたとしても、その野生種が持つすべての性質が四分の一の強さで現れるわけではない。
耐寒性、開花期、樹高、果実品質は、それぞれ異なる遺伝的な仕組みによって形づくられている。複数の遺伝子が関係する性質もあれば、栽培環境や樹齢によって見え方が変わる性質もある。
当時の育種家は、それを遺伝子の配列として確認することはできなかった。
それでも、親子の姿を比較し、兄弟実生を並べ、何年分もの記録を残すことで、受け継がれやすい性質と、予想どおりには現れない性質を見分けていった。
枝、花、果実、休眠、成熟期。
木の姿は、見えない遺伝が圃場へ残した文字だったのである。
花粉の中に見つかった、次世代への道
育種が進むにつれ、研究者の関心は、雑種がどのような姿をしているかだけでなく、その木が次の世代を残せるかへ向けられた。
一株の珍しい雑種を作ることと、その性質を将来の品種へ運ぶことは、同じではない。
雑種が正常な花粉や種子を作れなければ、交配はそこで行き止まりになる。目的とする性質を持っていても、次の育種集団へ渡せないのである。
研究者たちは花粉を採取し、顕微鏡で形を観察し、染色液を用いて正常に形成された花粉の割合を調べた。人工受粉も行い、果実の中に充実した種子ができるかを確かめた。
1998年に報告された、六倍体のラビットアイと、同じ六倍体であるVaccinium constablaei(バクシニウム・コンスタブレイ)の交雑では、調査された第一世代雑種が両親に近い高い花粉稔性を示した。
一方、四倍体のサザンハイブッシュと六倍体のコンスタブレイを結んだ雑種では、花粉の形成が不安定になり、花粉稔性も低下していた。
これは、同じ倍数性であれば必ず高い稔性を持つという意味ではない。
ただ、交雑する親の倍数性と、減数分裂の際に染色体がどのように対応するかが、雑種の稔性を左右する重要な条件であることを示す具体例となった。
なお、正常に見える花粉を作れることと、自分の花粉だけで十分に結実できることは同じではない。
花粉を作る能力、ほかの個体と交配して後代を残す能力、自家受粉で結実する能力は、それぞれ別に調べる必要があった。
育種家が花粉を見つめていたのは、単なる植物学的な興味からではない。
その小さな粒の中に、交雑の歴史を次の世代へ進められるかどうかが託されていたのである。
染色体を数えることで、境界の正体が見え始めた
ブルーベリーには、二倍体、四倍体、六倍体など、異なる倍数性を持つ種や栽培群が存在する。
見た目がよく似たブルーベリーであっても、染色体の組数まで同じとは限らなかった。
育種研究が進むにつれ、研究者たちは交雑親と後代の染色体数を調べ、どの組み合わせから、どの倍数性を持つ雑種が生まれたのかを確かめるようになった。
そこで重要な役割を果たしたのが、非還元配偶子だった。
通常、花粉や卵細胞が作られるときには、染色体数が親植物の半分になる。ところが一部の個体は、染色体数が十分に減らないまま配偶子を作ることがあった。
この現象によって、二倍体の野生種から通常より多い染色体を持つ花粉や卵細胞が生まれ、四倍体の栽培ブルーベリーと結び付けられる場合があった。
倍数性が異なる二つの育種材料の間に、思いがけず渡された橋だった。
1995年には、DNAマーカーを使った研究によって、非還元配偶子を通じて作られた特定の四倍体雑種が、二倍体の野生親であるVaccinium darrowii(バクシニウム・ダロウィー)のヘテロ接合性を約70%保持していることが示された。
ただし、この数値は特定の親と特定の雑種について得られた結果であり、すべてのブルーベリーハイブリッドへ当てはめることはできない。
また、野生親の有用な性質が、すべて一まとまりのまま運ばれたことを示すものでもなかった。
染色体が受け渡される過程では組換えも起こる。どの遺伝子が残り、どの組み合わせが崩れたのかは、得られた雑種を育て、さらに後代を調べなければ分からなかった。
非還元配偶子は、異なる倍数体を結べる可能性を生んだ。
だが、橋を渡った先に商業品種が待っていたわけではない。そこから先にも、長い選抜が続いていたのである。
戻し交配の畑で、性質はもう一度ほどかれた
種間雑種が得られても、その第一世代が直ちに商業品種として利用できるとは限らなかった。
目的としていた耐寒性や暖地適応性と一緒に、小果性、暗い果色、扱いにくい樹姿、好まれにくい食感などが現れることがあったからである。
育種家は、雑種を栽培品種や、それに近い選抜系統へ再び交配した。
戻し交配である。
戻し交配の狙いは、野生種の遺伝的背景をただ消してしまうことではなかった。
導入したかった性質を残しながら、果実を大きくし、果色を整え、風味と食感を改善し、稔性と栽培性を取り戻す必要があった。
2013年に報告されたハイブッシュとVaccinium arboreum(バクシニウム・アルボレウム)の交雑研究では、戻し交配第一世代の果実は、第一世代雑種より大きくなった。
一方で、戻し交配後代の樹勢と果実品質には著しい個体差が残った。多くの個体は栽培ハイブッシュより小果で、果色も暗く、食感や風味にも改良の余地があった。
別の遠縁交雑研究では、約2,500個体の戻し交配後代が圃場で育てられ、樹勢、成熟期、果実サイズ、風味、花粉の状態が評価された。
集団全体を見れば、栽培ハイブッシュより成熟が遅く、果実もやや小さかった。それでも、個体間には大きな変異があり、一般的な栽培品種に近い果実品質を示す木も見つかった。
さらに、野生種から導入しようとした性質が、戻し交配後代に必ず現れるわけではないことも確認された。
たとえば、反復開花性を持つ野生種を利用した別の戻し交配研究では、後代に野生種らしい樹姿を示す個体が現れた一方、期待された反復開花性は確認されなかった。
一つの性質を持つ親を交配へ用いても、その性質が目的の後代へ確実に残るとは限らない。
戻し交配の畑は、野生種の遺伝を薄める場所ではなかった。
交雑によって持ち込まれた性質を組み直し、栽培ブルーベリーとして利用できる組み合わせを探し直す場所だったのである。
外見からDNAへ、育種記録の読み方が変わった
20世紀の終わりが近づくと、ハイブリッドの遺伝的背景を調べる方法が変わり始めた。
育種家が使える情報は、樹姿、花粉、果実、染色体数だけではなくなった。
DNAマーカーによって、親が持っていた遺伝的な目印のうち、どれが雑種へ伝わったのかを追跡できるようになったのである。
圃場では栽培品種によく似て見える木にも、野生種由来の遺伝的な痕跡が残っている可能性がある。反対に、野生的な樹姿を示していても、育種家が目的としていた遺伝的領域を持っているとは限らない。
DNAマーカーは、目に見える性質の背後に残された育種履歴を探る手段となった。
21世紀に入ると、解析できる遺伝情報はさらに増えた。
多数のDNA変異をゲノム全体から調べることで、品種群の関係、野生種から導入された可能性のある領域、倍数体における染色体の受け渡し方まで研究できるようになった。
2023年には、四倍体ハイブッシュについて、染色体が自己四倍体的に振る舞い、四染色体遺伝を示すことが、複数品種の遺伝地図と染色体解析によって報告された。
四倍体では、一つの対立遺伝子を何個持つかによって、形質への影響が変わる場合がある。ただし、その効果が個数に単純比例するとは限らず、対立遺伝子同士の作用にも左右される。
圃場で観察されてきた個体差には、環境や樹齢も関係している。そこへ、どの対立遺伝子をいくつ受け取り、どの組み合わせで持っているかという違いが重なっていた。
初期の育種家が木の姿から感じ取っていた遺伝の複雑さは、ゲノム研究によって、染色体とDNAの言葉へ置き換えられ始めたのである。
ゲノムに残っていた、選抜の足跡
現代のゲノム研究は、長く使われてきた園芸上の系統名を、遺伝的な側面から読み直すようになった。
サザンハイブッシュは、北部系ハイブッシュを中心とする育種集団へ、暖地に適応した野生種の性質を導入することで発達してきた。
ところが、2021年に発表されたゲノム研究では、ラビットアイはハイブッシュ群と明瞭に分かれた一方、ノーザンハイブッシュとサザンハイブッシュは、二つの完全に独立した遺伝集団としては分離しなかった。
また、すべてのサザンハイブッシュが共通して持ち、ノーザンハイブッシュには存在しない野生種由来のゲノム断片も、明確には確認されなかった。
これは、サザンハイブッシュの育種史を否定する結果ではない。
異なる育種機関が別々の交配親を使い、それぞれの環境に適応する個体を選んだ結果、暖地適応へ至る遺伝的な道筋が一つではなかった可能性を示している。
暖地適応は、一つの遺伝子だけですべてを説明できる性質ではないと考えられている。
一方、低温要求量など個別の形質については、比較的大きく関係するゲノム領域も検出されている。
多数の遺伝子が関わりながら、その中には強い影響を持つ領域もある。
かつて育種家が圃場で選び続けた木々は、異なる遺伝的な道を通りながら、似た栽培適応性へ近づいていたのである。
系統名は、栽培者にとって重要な地図である。
だが、ゲノムは、その地図の境界線よりも複雑な道を、育種家たちが歩いてきたことを記録していた。
同じ名でくくっても、同じ遺伝集団ではなかった
ハイブリッドという言葉には、広い意味がある。
異なる親の交配から生まれた個体を広く含めれば、現在の改良品種の多くが、何らかの意味でハイブリッドに当てはまる。
しかし、本サイトで用いるハイブリッド系は、交配育種で生まれた品種をすべて集めた分類ではない。
また、世界共通の植物分類や、一つの遺伝集団を示す名称でもない。
本サイトでは、園芸上異なる系統の遺伝的背景を結んだ品種のうち、その複合的な育種史へ目を向けることが、品種の意味を理解するうえで重要なものを、補助的にハイブリッド系として整理している。
そのため、この区分に置かれる品種へ、共通した耐暑性、耐寒性、樹勢、果色、倍数性が保証されるわけではない。
サザンハイブッシュやハーフハイブッシュも、広い意味では異なる遺伝的背景を結んだハイブリッドである。
それでも独立した園芸群として扱われるのは、共通する育種目的と園芸的性格を持つ品種群として定着しているからである。
本サイトのハイブリッド系を結び付けるものは、共通の栽培特性ではない。
異なる系統の境界を越えた育種史と、その複合的な来歴を読み解く必要性なのである。
後世へのつながり
初期の育種家は、圃場に並んだ実生の違いから遺伝を読んだ。
その後、研究者は花粉を調べ、染色体を数え、雑種が次の世代を残せるかを確かめた。
戻し交配後代を育てることで、導入した性質がどのように残り、どの性質が失われるのかを記録した。
やがてDNAマーカーが、外見からは分からない祖先の痕跡を追い始めた。さらにゲノム解析が、倍数体の複雑な遺伝と、何世代にもわたる交雑の履歴を読み直すようになった。
知識が増えても、圃場で木を確かめる仕事が消えたわけではない。
遺伝情報は、育種家が残すべき一株を探すための新しい目となった。
育種家は、木の姿とゲノムの両方から、その個体が受け継いだものを読み取れるようになったのである。
ハイブリッドのゲノムには、異なる祖先の情報だけでなく、育種家が何を残し、何を捨ててきたのかという、人間の選抜の足跡も刻まれている。
遺伝の謎は、何世代もの木がほどいていった
ハイブリッドの遺伝的特徴は、二つの親の性質を半分ずつ受け継ぐことではなかった。
交配によって異なる遺伝的背景が出会い、その後の世代で組み替えられ、圃場へさまざまな姿となって現れる。
その中には、育種家が待ち望んだ性質を持つ木もあれば、目的から大きく外れた木もあった。
かつて、育種家は枝、花、果実から、その木が受け継いだものを読み取ろうとした。
研究者は花粉を染め、染色体を数え、交配を繰り返した。
やがてDNAの目印が使われ、ゲノム全体から過去の交雑をたどれる時代が訪れた。
それでも、最後に残す木を決めるためには、その一株を育て、季節の中で確かめなければならなかった。
ハイブリッドの遺伝は、理論だけで解き明かされたものではない。
何世代ものブルーベリーと、それを観察し続けた人々の時間が、少しずつほどいてきた歴史なのである。
参考資料
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