北へ進んだブルーベリーは、最低気温だけでは測れない冬に試された
秋が深まり、日が短くなると、ブルーベリーは枝の成長を止め、春まで花芽を守る姿へ変わっていった。
しかし、すべての木が同じ時期に冬支度を始めるわけではない。
早く成長を終える木がある。秋が深まっても枝を伸ばし、寒さへ十分に備える前に凍結を受ける木もある。
真冬になれば、木々の差はいっそう明瞭になった。
枝が生き残っても、花芽が凍死すれば翌年の収穫は失われる。厳冬期を無事に越えても、冬の途中に暖かな日が続き、花芽が春へ動き始めたところへ寒波が戻れば、再び被害を受けることがあった。
ブルーベリーを傷つけたのは、その土地で記録された最低気温だけではなかった。
秋の冷え込みが始まる時期、厳冬期の深さ、冬の途中に訪れる暖かさ、そして春先の寒の戻り。
木が季節の変化をどのように受け止めたかによって、同じ低温でも被害の大きさは変わった。
育種家が寒冷地へブルーベリーを広げようとしたとき、必要だったのは、一度の寒波に耐える木ではなかった。
秋から春まで続く冬の変化を越え、花芽を守り、短い夏のうちに果実を熟させられる木だったのである。
この時代に何が起きていたのか
20世紀初頭に始まったブルーベリーの計画的育種は、北米北東部に自生するハイブッシュブルーベリーを、安定して栽培できる果樹へ変えていった。
果実の大きさ、色、風味、収量が改良され、商業生産を支える品種が次々に育成された。
ところが、その栽培地域をさらに寒い土地へ広げようとすると、果実品質だけでは越えられない壁が現れた。
寒さへ備える前に凍結を受ければ、枝や芽は傷む。深い休眠中の低温を越えても、春先に芽が動いた後で凍結すれば、花と幼果が失われる。
寒冷地で求められたのは、樹体が冬を生き残るだけの品種ではなかった。
花芽を守り、春を急がず、限られた生育期間の中で開花から収穫までを終えられる品種だった。
既存の栽培品種だけでは、その土地に必要な性質を十分に得られないことがある。
そこで育種家は、北方や高標高地で生きてきたブルーベリーへ目を向けた。
地面に近い位置へ枝を広げ、雪に覆われながら冬を越すローブッシュ。
山地の厳しい低温と、遅い春に適応した野生種。
果実の商品性では栽培ハイブッシュに及ばなくても、それらの植物には、北方の季節を生きるための性質が残されていた。
寒冷地向けのハイブリッド育種は、その冬の過ごし方を、栽培果樹の中へ移そうとする試みだったのである。
ハイブリッドという名前だけでは、冬の強さは分からなかった
異なる系統や種を結んだブルーベリーであっても、すべてが寒さに強いわけではない。
南方野生種を利用した交雑もあれば、北方の低木性種を利用した交雑もある。高標高地の野生種を使ったものもあれば、果実の色、樹勢、成熟期を変えるために異系統を結んだものもある。
交雑の目的と祖先が違えば、後代へ現れる冬季特性も異なる。
寒冷地の祖先を持っていても、その性質がすべての後代へ同じように伝わるわけではない。系譜上の割合だけで、実際の耐寒性を言い当てることもできなかった。
大切だったのは、どの遺伝資源を使ったかだけではない。
どの土地の冬を越えるために交配され、どのような後代が残されたのかという、育種の履歴だったのである。
1913年、低いブルーベリーを作る交雑が始まった
ハイブッシュとローブッシュを結ぶ発想は、ブルーベリー育種の早い時代から存在していた。
計画的なハイブッシュ育種を進めたフレデリック・コビルは、1913年にはハイブッシュとローブッシュの交雑を行っていた。
1916年には、そのような交雑から得られた実生がミネソタへ送られ、寒冷地での評価が始まった。
ハイブッシュには、栽培果樹として優れた果実品質があった。
一方、Vaccinium angustifolium(バクシニウム・アングスティフォリウム)に代表されるローブッシュは、北米北東部の寒冷な土地で、地面に近い位置へ枝を広げて生きていた。
低い樹姿は、積雪のある土地で結実部が雪に覆われやすいという利点を持っていた。
ハイブッシュの大きな果実と、ローブッシュの低い樹姿や冬季適応性を結び付ける。
この交雑は、果実だけを見ていた初期のブルーベリー育種へ、木の高さそのものを冬への適応手段として見る視点を持ち込んだのである。
1920年代、ミシガンで北方果樹としての可能性が試された
1920年代になると、ハイブッシュとローブッシュの交雑個体を、北方で栽培できる新しい果樹として利用しようとする試みが進められた。
ミシガンでは、北部に自生するローブッシュから優良個体が集められ、ハイブッシュとの交配が行われた。
だが、最初から理想的な木が得られたわけではない。
交雑後代の多くは果実が小さく、色も暗かった。低い樹姿や冬季適応性を得ても、栽培果樹に求められる果実品質へ届かなければ、品種として広く利用することはできなかった。
それでも、一部の選抜系統は次の育種へ残された。
北方野生種の性質は、一度の交配で完成品種を生むものではなかった。
何世代もの交雑と選抜を経て、少しずつ栽培品種の中へ組み込まれていく遺伝資源だったのである。
1967年、ミネソタで体系的な寒冷地育種が始まった
ミネソタ大学では1967年、冬季耐寒性が高く、樹高が低く、果実が大きく、品質にも優れたブルーベリーを目標とする育種事業が始まった。
翌1968年には、後にノースブルー、ノーススカイ、ノースカントリーを生む交配が行われた。
育種へ使われた系統の中には、ミネソタの自然条件のもとで冬の選抜を受けたハイブッシュや、ハイブッシュとローブッシュの交雑に由来する低樹高系統が含まれていた。
交雑実生から原木が選ばれたのは1973年だった。
その後、ミネソタ州内の複数の試験地で、生育、冬季障害、収量、果実品質が調べられた。
ノースブルー、ノーススカイ、ノースカントリーは、比較された一般的なハイブッシュ品種より冬季障害が少なかった。
1983年にはノースブルーとノーススカイが発表され、ノースカントリーは1986年に加わった。これらは、ミネソタ大学の寒冷地向け育種を代表する最初期の品種群となった。
ノースブルーは果実が大きく、収量も多かった。ノーススカイはさらに低く育ち、結実部が雪に覆われやすい姿を持っていた。ノースカントリーは、ノーススカイより大きな樹体によって、より高い収量性を示した。
三品種の違いは、耐寒性だけを高めれば寒冷地用品種が完成するわけではないことを物語っていた。
木の高さ、収量、果実サイズ、風味。
育種家はそれらを見比べながら、冬の強さと果樹としての価値が共存する一点を探していたのである。
ハーフハイブッシュは、積雪を育種へ取り込んだ
ハイブッシュとローブッシュの遺伝的背景を結んだ品種群は、やがてハーフハイブッシュと呼ばれるようになった。
その価値は、二つの系統の中間の高さになることだけではなかった。
冬季耐寒性を持つ花芽と、結実部が雪に覆われやすい低い樹姿。
植物自身が持つ性質と、積雪による保護が重なることで、厳しい冬を越えられる可能性が高まった。
ただし、積雪による保護は、雪が安定して積もる地域で働く条件でもある。
降雪が少ない年や、雪が途中で失われる土地では、同じ低樹高品種でも十分な保護を受けられないことがある。
ハーフハイブッシュの冬の強さは、植物だけで完結する性質ではなかった。
育種された樹姿と、その土地の積雪が出会うことで成立した寒冷地適応だったのである。
南方のラビットアイを北へ動かす構想も生まれた
寒冷地向けの交雑は、ハイブッシュをさらに北へ広げる方向だけで進められたのではない。
アメリカ南東部で利用されてきたラビットアイの長所を残しながら、その栽培域を北へ広げようとする試みも始まった。
ラビットアイには、旺盛な樹勢と高い生産力があった。
しかし、北方では花芽の冬季耐寒性が制約となった。必要な低温を満たした後に暖かな日が続くと、花芽が冬の状態を離れ、その後の寒波へ弱くなることも問題だった。
ラビットアイの樹勢を残しながら、花芽の耐寒性を高め、冬の暖かさへ急いで反応しない木を作る。
その構想の中で、アメリカ南東部の高標高地に自生する野生種が注目されたのである。
高標高地のコンスタブレイが、冬の時間を運んだ
Vaccinium constablaei(バクシニウム・コンスタブレイ)は、ジョージア州北部、ノースカロライナ州西部、テネシー州東部などの高標高地に自生する六倍体の野生ブルーベリーである。
高い冬季耐寒性を持ち、生育開始と開花が遅く、果実の発育期間はラビットアイより短かった。
コンスタブレイをラビットアイ改良へ使う着想は、20世紀半ばにはすでに存在していた。
1980年代には、米国農務省やノースカロライナ州立大学の育種家が両者の交雑を進め、北方適応型ラビットアイにつながる選抜系統を作っていた。
ラビットアイとコンスタブレイは、どちらも六倍体だった。両者を結んだ交雑では、高い花粉稔性を保つ第一世代雑種も得られた。
しかし、コンスタブレイが持つ冬季特性だけを受け取ることはできなかった。
交雑後代には、小さな果実や暗い果色も現れた。
冬の強さを残しながら、果実サイズ、収量、樹姿、風味を整える仕事が必要だった。高標高地の野生種は、完成品種ではなく、新しい育種集団を作るための出発点だったのである。
遅く咲き、北の短い夏に間に合わせる
コンスタブレイがもたらした価値は、真冬の耐寒温度だけではなかった。
生育開始と開花が遅いことは、春先の凍結へ花芽や花がさらされる可能性を下げた。
一方、開花を遅らせるだけでは、北方に適した果樹にはならない。
ラビットアイは果実の成熟が遅く、北方の短い生育期間では、秋の寒さが来る前に収穫を終えられない可能性があった。
コンスタブレイは、ラビットアイより短い果実発育期間を持っていた。
両者の交雑後代には、ラビットアイより遅く開花しながら、ラビットアイより早く成熟するものが現れた。
春の凍結を避けるために花を待ち、秋の寒さが来る前に果実を仕上げる。
育種家が北へ運ぼうとしたのは、一つの耐寒温度ではなかった。
短い一年の中で、季節の仕事を終えられる生育周期だったのである。
1993年、北方適応型ラビットアイへ続く交配が行われた
1993年、米国農務省のマーク・エーレンフェルトは、ニュージャージー州チャッツワースで一つの交配を行った。
母親となったUS 874は、コンスタブレイと、複数種の遺伝的背景を持つ六倍体ハイブリッドを結んだ系統だった。
そこへ、商業品種であるラビットアイのプレミアが交配された。
この交配から生まれた実生の一つは、1996年にUS 1056として選抜された。
US 1056はラビットアイの遺伝的背景を半分持ちながら、北部ハイブッシュに匹敵する冬季耐寒性を示した。
さらに、最大耐寒性を長い期間維持し、春の花芽発達もラビットアイより遅かった。
コンスタブレイが高標高地で身に付けた冬の時間が、複雑な交雑を通して、南方系統の樹勢を持つ木へ受け渡されていたのである。
2004年から2007年、花芽を凍らせて冬の強さを測った
21世紀に入ると、ラビットアイ、コンスタブレイ、その交雑後代が、実際にどの程度の低温へ耐えられるのかが比較された。
2004年から2006年の試験では、休眠中の花芽を段階的な低温へさらし、半数が致死に至る温度であるLT50が測定された。
調査された品種・系統のLT50は、マイナス17.2℃からマイナス28.4℃まで、広い範囲に分かれた。
コンスタブレイを50%以上持つ系統と、25%を持つ一部の系統は、北部ハイブッシュのブルークロップと同等以上の花芽耐寒性を示した。
その結果は、コンスタブレイの遺伝的背景を利用すれば、ラビットアイ型のブルーベリーへ高い花芽耐寒性を導入できる可能性を示した。
同時に、同じ祖先割合を持つ系統の間にも差があることが確認された。
血統表に記された割合より、実際に冬を越した花芽の中に、育種家が探していた答えがあったのである。
2008年から2012年、冬は一日ではなく季節として測られた
花芽のLT50を測ることで、厳冬期の耐寒性を数値として比較できるようになった。
次に研究者が追い始めたのは、その強さが一年の中でどのように変わるのかという問題だった。
秋から春まで花芽を継続的に採取し、耐寒性が高まり、維持され、失われていく過程が調べられた。
2012年には、異なる遺伝的背景を持つ七つの品種・系統について、寒冷順化から脱順化までを比較した研究が報告された。
ハーフハイブッシュのノーススカイと、コンスタブレイとラビットアイの雑種リトルジャイアントは、11月末までにマイナス28℃以下の耐寒性へ達した。
ブルークロップ、レガシー、ティフブルー、二つの北方適応型ラビットアイ系統は、12月下旬までに、おおむねマイナス22℃からマイナス27℃の最大、または最大に近い耐寒性へ達した。
最大耐寒性へ到達する時期も、その状態を維持する長さも、春へ向かって耐寒性を失い始める時期も同じではなかった。
冬の強さは、ある一日の数字ではなく、秋から春まで流れ続ける時間の中へ存在していたのである。
2015年、ノクターンとして一つの答えが世に出た
1993年の交配から二十二年後、US 1056はノクターンという品種名で公表された。
ノクターンは、コンスタブレイ、ラビットアイ、ハイブッシュなど、複数種の遺伝的背景を持つ六倍体ハイブリッドだった。
花芽の最大耐寒性は北部ハイブッシュに匹敵し、その耐寒性を長く維持する性質も備えていた。新しい枝葉が動き始める時期も、一般的なラビットアイより遅かった。
コンスタブレイをラビットアイへ導入し、北方で利用できる木を作ろうとした長年の試みが、一つの品種へ到達したのである。
ただし、ノクターンは主流の生果流通用品種にはならなかった。
熟した果実は黒く、甘く、独特の風味を持っていた。未熟果は赤橙色で観賞性に優れていたが、果梗痕と果実の硬さには課題があり、長期保存や輸送には向かなかった。
そのため、家庭果樹、景観、観賞を中心とする特殊用途の品種として位置づけられた。
冬季耐寒性を導入できても、商業流通に必要な果実品質まで同時に完成するとは限らない。
ノクターンは、異系統間交雑が開いた可能性と、その先に残された課題の両方を伝える品種となったのである。
2021年、北方野生種の冬が枝の内部から読み直された
2021年、カナダの商業ローブッシュ圃場で、アングスティフォリウムとVaccinium myrtilloides(バクシニウム・ミルティロイデス)の枝が、秋から春まで毎月採取された。
研究者は茎の凍結耐性を測り、日長、気温、積雪、デンプン、可溶性糖が季節の中でどのように変化するかを追った。
秋から冬へ耐寒性を高める時期には、日長と気温が大きく関係し、デンプンの分解と可溶性糖の蓄積も変化していた。
春へ向かって耐寒性を失う時期には、ラフィノースを含む可溶性糖との関係が確認された。
ここで測定されたのは茎であり、花芽を対象とした先のLT50と、その数値を直接比較することはできない。
それでも、ローブッシュが北方の冬へ適応する姿の背後で、季節に合わせて枝の内部まで変化していることが見えてきた。
1913年に交配へ招かれた低いブルーベリーは、一世紀を経て、細胞の内側から冬を読み解く研究対象になったのである。
北へ進む育種は、不安定な冬を守る育種へ変わった
かつての耐寒育種では、厳しい最低気温に耐える品種を作り、栽培できる地域を北へ広げることが大きな目標だった。
しかし、気候が変化すると、冬の危険も変わる。
秋の冷え込みが遅れれば、寒さへの備えが進む前に凍結を受ける可能性がある。冬の途中に暖かな日が続けば花芽が春へ動き、その後の寒波が大きな被害をもたらす。
北方や高標高地の野生種が持つ、早い冬支度、高い厳冬期耐性、遅い生育開始は、単に栽培域を北へ広げるための性質ではなくなった。
変化の大きな冬から、既存産地の花芽と収穫を守るための遺伝資源として、その価値が見直されているのである。
後世へのつながり
ハイブッシュとローブッシュを結んだ交雑は、低い樹姿と積雪を利用する寒冷地用品種群へつながった。
ラビットアイとコンスタブレイを結んだ交雑は、南方の樹勢を残しながら北方の冬へ進む道を開き、ノクターンという品種へ到達した。
二つの育種史は、同じ冬の強さを目指したものではない。
一方は低い樹姿と北方の遺伝資源を結び、もう一方は南方系統の長所へ高標高地の冬季特性を加えた。
異なる道を進みながら、どちらも既存の栽培群だけでは越えられなかった冬の境界を動かしたのである。
冬を越えた木には、春を待った時間が残っている
ローブッシュが雪の下で守ってきた低い枝。
コンスタブレイが高標高地で保ってきた遅い春。
異なる土地で身に付けられた冬の過ごし方は、交配によって出会い、人の選抜を経て栽培果樹へ結び直された。
人が寒冷順化や脱順化を数値で測るより先に、北方の野生種は季節の変化を読み、春を待つ方法を身に付けていた。
ハイブリッドの耐寒性をたどることは、何度まで耐えられるかを比べることだけではない。
植物がそれぞれの土地で受け継いできた冬の時間を、人が交配によって運び、ブルーベリーを栽培できる地域の境界を動かしていった歴史をたどることなのである。
参考資料
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Deslauriers, A.、L. Garcia、G. Charrier、V. Buttò、A. Pichette、M. Paré(2021)「Cold Acclimation and Deacclimation in Wild Blueberry: Direct and Indirect Influence of Environmental Factors and Non-Structural Carbohydrates(コールド・アクリメーション・アンド・ディアクリメーション・イン・ワイルド・ブルーベリー)」『Agricultural and Forest Meteorology(アグリカルチュラル・アンド・フォレスト・メテオロジー)』第301~302巻、108349。
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