しくじりの概要
秋のある日のことだった。私は毎日、ブルーベリーの葉をモミモミすることを日課としている。葉を軽くつまみ、厚みやしなり具合、葉温、含水量を指先で確かめる。これを続けると、苗木の健康状態が“手の感覚だけで”分かるようになる。いわば、ブルーベリーの健康診断を指先で行うようなものだ。
そのため、私は毎日、庭を徘徊しながらあっちの苗木、こっちの苗木と葉をモミモミしている。他所から見れば、ただの怪しい人である。ブルーベリーたちもきっと「また来たよ、葉モミモミおじさん…」と思っていたに違いない。
しかし、この日は運が悪かった。葉の裏に潜んでいたのである。ヤツが。そう、イラガである。体全体に注射針のような毒棘をまとわせた緑の怪物。葉裏で静かに暮らしていたイラガは、私の指が迫ってきた瞬間、きっとこう思ったはずだ。「いやいやいや、なんで握るんだよ!こっちは葉裏で平和に生活してただけなんだけど!?」
私はそのままイラガを握りしめ、次の瞬間、悲鳴を上げた。チクチク、ズキズキ、ピリピリと、指先から脳天まで電撃のような痛みが走る。あまりの痛みに、脳内で何かがバチンと音を立てて壊れた。その瞬間、イラガは私の足の下でミンチになった。
イラガを握りしめることは、自分が生きていることを痛みを持って深く実感するには良い手段かもしれない。
がしかし、ブルーベリー栽培にとっては一番避けたい最悪のイベントである。
もしあの頃、昆虫保護協会に入っていたら、間違いなく除名処分である。生き物の殺生が来世の生まれ変わりに影響するなら、私の来世はきっとバクテリアであろう。
このしくじりがブルーベリーに及ぼした影響
イラガはブルーベリーの葉を好んで食害する。葉裏に潜み、柔らかい葉肉を食べながら成長する。私がモミモミしていた葉は、まさにイラガの食卓だったわけである。ブルーベリー側からすれば、「いや、食われてるんだけど?気づいてよ?」という状況だった。
イラガの食害は、ブルーベリーの葉が持つスポンジ構造を破壊する。ブルーベリーの葉は細胞間に空気を含み、光合成と蒸散を効率よく行うための“ふわふわ構造”になっている。しかしイラガが食べた部分は毛細管現象が乱れ、葉の水分移動が不安定になる。葉の一部が薄くなり、しなりが悪くなり、葉温が上がりやすくなる。
私は毎日モミモミしながら「なんか最近しなりが悪いな」と感じていたが、その原因がイラガの食害だったと知った瞬間、葉が静かにこう言っている気がした。「裏で事件起きてたんだけど?気づいてよ…」
その瞬間、私は心の中で葉に深く謝罪した。
そして問題はここからである。イラガが複数発生すると、葉の被害は一気に広がる。葉が食われるということは、ブルーベリーの“太陽光パネル”が壊されるということであり、光合成量が急激に落ちる。光合成が落ちると、根に送られるエネルギーが不足する。ブルーベリーの根は、葉から送られる糖がないと新しい細根を作れない。
細根が作れない状態が続くと、根は呼吸できなくなり、鉢の中で水分を吸う力を失う。すると根鉢は徐々に乾燥し、やがて水を弾くようになり、内部がカラカラに固まってしまう。これがいわゆる「根鉢の化石化」である。水をかけても表面だけ濡れ、内部は乾いたまま。ブルーベリーにとっては致命的な状態だ。
イラガはただ刺すだけの毛虫ではない。葉を食べ、光合成を奪い、細根を壊滅させ、最終的に根鉢を化石化させる“静かな破壊者”である。
ではどうしたらよかったのか
本来、葉をモミモミする行為自体は正しい。葉温やしなりを指先で感じ取るのは、ブルーベリー栽培の高度な観察技術である。しかし、葉裏の確認を怠ったことが今回の悲劇の原因だった。葉裏はイラガの定位置であり、そこを見ずにモミモミするという発想自体が間違いだった。
イラガは葉裏に潜む。つまり、葉を触る前に裏を見るべきだったのである。私は「葉表だけ見れば十分だろう」と思い込んでいたが、その油断が指先の激痛につながった。葉裏チェックを怠ることは、ブルーベリー栽培において禁忌である。
さらに、秋はイラガの発生ピークであり、葉を触る際は慎重さが求められる。私は毎日モミモミする習慣があったため、逆に油断が生まれた。「毎日触ってるから大丈夫」という慢心が、イラガの毒棘を直撃する結果となった。私はこの日、葉裏チェックの重要性を身をもって理解したのである。
結論
ブルーベリーの葉はスポンジ構造が生命線であり、葉裏の確認を怠ってはいけない。イラガの存在を軽視することは禁忌であり、対処法は事前の観察しかない。初心者はまず葉裏を見る習慣を身につけるのが正解である。最後にひとつだけ言えることがある。葉をモミモミする前に、まず敵が潜んでいないか確認するべきである。
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